複数形 自分でなくなりたい、単数でなくなりたいというやるせない憧れが欲なのか。人間が人間であることそのものから来る身悶えするような寂しさが性なのか。女でも男でもいい、いやそれは物体でもいい風景でもいい、たった1つの何かとの出会いが、「自分が自分であること」の淋しさを超えるための複数形の酩酊のすべてをもたらしてくれるということがある。 (「幽(かすか)」、松浦寿輝) 前の記事:復興 次の記事:恐れ